ヒート・スプレッド指向プロセッサに関する研究

はじめに

本研究は科学研究費補助金・若手研究(B)の研究テーマとして,平成24年度より開始したものです.

目的

Intel製チップの TDP の推移

近年のプロセッサでは,チップから発生する熱が性能を制限する大きな要因となっています.冷却装置に求められる冷却能力を表すTDP(Thermal Design Power)は,この20年間で急激に上昇しました.その結果,TDPは実用的な冷却能力の限界に達し,頭打ちとなっています(図1).出荷時のチップの動作周波数はTDPに基づいて定められており,その値はクリティカル・パスの遅延によって決まる回路構造の論理的な動作限界よりも低めに設定されているのが普通です.実際,特殊な冷却装置を用いれば,近年のプロセッサは5GHzで動作させることも可能なのです.このように,冷却装置の能力向上率は,LSIの微細化によってもたらされるプロセッサの性能向上率に追いついていないのが現状です.

ところで,チップにはホット・スポットとコールド・スポットが存在することが知られています.前者の例は演算器,後者の例はキャッシュです.両者の温度差は,場合によっては,30度にも達することが知られています.回路は,一部分でも発熱量が正常に動作する限界値を上回ると,全体として正常に動作することを保証できなくなってしまいます.そのため,チップが正常に動作する限界の発熱量はホット・スポットのそれによって決まる,と言えます.なお,ホット・スポットはチップのごく一部の領域に限られることも知られています.

ヒート・スプレッド指向プロセッサのイメージ

本研究では,チップの発熱量が空間的にも時間的にも分散されたプロセッサ,すなわち,ヒート・スプレッド指向プロセッサの開発を目指しています.ホット/コールド・スポットの区別なく,各エリアが一様な温度を持つプロセッサ(図2)の実現を目指しています.アクティビティをチップ全体に分散させることによってピーク温度を抑え,その結果,温度管理機構によってシステムの活動が低下する機会が減る,同一TDPでより高い動作周波数を使用できるなどのメリットが得られると考えています.